『八旗制度の研究』メモ2 ─順治年間の宗室の出征─

 と言うワケで引き続き谷井センセの『八旗制度の研究』のメモです。この本は『天理大学学報』で発表された「八旗制度再考」という八本に及ぶ論文が元になっています。入関前を対象とした本論は元の論文の通りなのですが、入関後のことを対象にした附論iが付いていることが、自分にとってはこの本の最大のセールスポイントです。


 入関後の議政王についての記事はホントに為になります。で、今回はその中でも労作の「順治朝に出征した主な宗室(『世祖実録』に見えるもの)」を引用してみました。しかし、この表は満文《世祖実録》を参照したようで、満文での名前のみ記載されています。折角なので、一人一人漢文と見比べて宗室を比定していきました。爵位については見てる史料がバラバラなので、一貫性は無いのですが、その辺はご容赦を…。本当は出征年次の爵位で書こうとも思ったのですが、流石にそこまで辿り着かずに息絶えました。

表1 順治朝に出征した主な宗室ii
出征した宗室目標
元年四月Dorgoniii(大将軍)・Hoogeiv・Dodov・Ajigevi・Lolohonvii・Nikanviii ・Boloix・Mandahaix ・Tuncihaxi ・Bohotoxii ・Hotoxiii山海関方面xiv
十月Ajige(靖遠大将軍)・Lolohon・Mandahai ・Bohoto・Tunciha流寇xv
Dodo(定国大将軍)・Šosexvi ・Bolo・Nikan・Tuncixvii ・Hoto・Šangšanxviii ・Durhuxix ・Terfuxx ・Dununxxi ・Baintuxxii ・Handaixxiii陝西→南京xxiv
十二月以前Hooge不明
二年正月Abataixxv山東(Hoogeと交代)
閏六月Bolo・Baintu浙江xxvi
七月
九月に増援
Lekdehunxxvii (平南大将軍)・Kanggadaixxviii・Babutaixxix ・Fulehexxx Jahanaxxxi ・Ungguxxxii ・Fulataxxxiii ・Subutuxxxiv ・Sabixxxv 江南(Dodoと交代)xxxvi
三年正月Hooge(靖遠大将軍)・Lolohon・Nikan・Tunciha・Mandahai・Kalcuhūnxxxvii ・Yoloxxxviii ・Nusaixxxix 四川xl
二月Bolo(征南大将軍)・Hoto福建・浙江xli
五月Dodo(揚威大将軍)・Šose・Wakdaxlii ・Bohotoモンゴルxliii
四年正月Kanggadai宣府
五年閏四月Tunci(平西大将軍)・Handai陝西
八月Ajige・Šose・Nikan・Šangšan・Yolo天津土寇
九月Jirgalangxliv (定遠大将軍)・Subutu・Gungganxlv ・Lekdehun・Durhu・Gūlmahūnxlvi ・Fulata湖広xlvii
十一月Ajige(平西大将軍)・Bolo・Šose・Baintu・Fulehe・Yolo戌守大同xlviii
十二月Wakda・Šangšan・Tunci・Jahana・Handai大同(Ajigeの軍前に)xlix
六年正月Nikan(定西大将軍)・Kalcuhūn・Murhul 太原li
二月Dorgon大同lii
四月Ubahailiii ・Tunciha・Babutai大同(Ajigeらと交代)liv
Bolo(定西大将軍)汾州府
Nikan大同lv
七月Dorgon大同lvi
Mandahai(征西大将軍)・Wakda(十月より征西大将軍として山西へ)・Sabi・Bintu・Handai朔州・寧武lvii
八月Ajige・Kanggadai大同lviii
十月Dorgonモンゴルlix
九年七月Nikan(定遠大将軍)・Bashanlx ・Tunci・Jahana・Murhu・Handai湖南・貴州lxi
十年正月Tunci(定遠大将軍)・Basahn・Jahana・Murhu・Handai湖南(Nikanの死による再命令)lxii
七月Yolo(宣威大将軍)駐防帰化城
十一年十二月Jidulxiii (定遠大将軍)・Balcuhūnlxiv ・Udahai鄭成功
十四年四月Lotolxv (寧南靖海大将軍)駐防荊州→湖広・貴州lxvi
十五年正月Donilxvii(安遠靖寇大将軍)・Lokodolxviii ・Šangšan・Dulanlxix雲南lxx
十七年八月Loto(安南大将軍)鄭成功

 この表見ると、ドルゴンは入関以後、モンゴル関係でしか出征していないとか、鄭成功が二度出て来るけど、南京占領のあった順治15(1658)年には宗室は動いていないとか、ニカン漢土中心に見ると分からんことも、この表見てるだけで気がつける部分ありますね。
 この表と隣の「表2 順治年間に死亡した公以上の宗室」だけで、順治年間宗室の把握が相当楽になります。ですが、こっちも満文標記なので、手が空いたらまたメモを上げます。

  1. 附論1 入関後における八旗制度の変化 [戻る]
  2. P.402 [戻る]
  3. 摂政王・ドルゴン 多爾袞 [戻る]
  4. 肅親王・ホーゲ 豪格 [戻る]
  5. 豫親王・ドド 多鐸 [戻る]
  6. 英親王・アジゲ 阿濟格 [戻る]
  7. 衍嬉郡王・ロロホン 羅洛宏⇒ヨト第一子 [戻る]
  8. 敬謹親王・ニカン 尼堪⇒チュエン第三子 [戻る]
  9. 端重親王・ボロ 博洛⇒アバタイ第三子 [戻る]
  10. 巽親王・マンダハイ 滿達海⇒ダイシャン第七子 [戻る]
  11. 元グサ ベイセ・トゥンチハ 屯齊哈⇒シュルガチ第三子トゥリン第一子 [戻る]
  12. グサ ベイセ・ボホト 博和託⇒アバタイ第二子 [戻る]
  13. グサ ベイセ・ホト和托⇒アジゲ第一子 [戻る]
  14. 入関作戦 大順・李自成 [戻る]
  15. 李自成 [戻る]
  16. 承澤親王・ショセ 碩塞⇒太宗ホンタイジ第五子 [戻る]
  17. 鎮國公・トゥンチ 屯齊⇒シュルガチ第三子トゥリン第二子 [戻る]
  18. 元ドロ ベイレ・シャンシャン 尚善⇒シュルガチ第八子フィヤング第二子 [戻る]
  19. ドロ ベイレ・ドルフ 杜爾祜⇒チュエン第一子ドゥドゥ第一子 [戻る]
  20. グサ ベイセ・テルフ 特爾祜⇒ドゥドゥ第三子 [戻る]
  21. 輔國公・ドゥナン 杜努文⇒ ドゥドゥ第六子 [戻る]
  22. 元ドロ ベイレ・バイントゥ 拜音圖⇒ヌルハチ五弟バヤラ第二子 [戻る]
  23. 鎮國公・ハンダイ 漢岱⇒ヌルハチ二弟ムルガチ第五子 [戻る]
  24. 李自成⇒南明・福王政権 [戻る]
  25. 饒餘郡王・アバタイ 阿巴泰 [戻る]
  26. 南明・魯王政権 [戻る]
  27. 順承郡王・レクデフン 勒克徳渾⇒ダイシャン第三子サハリヤン第二子 [戻る]
  28. 元グサ ベイセ・カンガダイ 鞏阿岱⇒ヌルハチ五弟バヤラ第四子 [戻る]
  29. 鎮國公・バブタイ 巴布泰⇒ヌルハチ第九子 [戻る]
  30. 鎮國公・フレヘ 傳勒赫⇒アジゲ第二子 [戻る]
  31. 輔國公品級・ジャカナ?ジャハナ? 扎喀納⇒シュルガチ第三子ジャサクト第二子 [戻る]
  32. 輔國公・ウング 翁古⇒アバタイ第二子ボホト第一子 [戻る]
  33. グサ ベイセ・フラタ 傅喇塔⇒シュルガチ第八子フィヤング第四子 [戻る]
  34. グサ ベイセ・スブトゥ 蘇布圖⇒アバタイ第一子シャンギャン第一子 [戻る]
  35. グサ ベイセ・サビ 薩弼⇒ドゥドゥ第七子 [戻る]
  36. 南明・魯王政権 [戻る]
  37. ドロ ベイレ・カルチュフン 喀爾楚渾⇒ヨト第三子 [戻る]
  38. 安親王ヨロ 岳楽⇒アバタイ第四子 [戻る]
  39. グサ ベイセ・ヌサイ 努賽⇒シュルガチ第八子フィヤング第六子 [戻る]
  40. 大西・張献忠 [戻る]
  41. 南明・魯王政権⇒唐王政権 [戻る]
  42. 謙郡王・ワクダ 瓦克達⇒ダイシャン第四子 [戻る]
  43. ソノド?(蘇尼特)部⇒ハルハ部 [戻る]
  44. 鄭親王・ジルガラン 濟爾哈朗 [戻る]
  45. 輔國公・グンガン 恭阿⇒アミン第四子 [戻る]
  46. グサ ベイセ・グルマフン 固爾瑪渾⇒アミン第三子 [戻る]
  47. 李錦 [戻る]
  48. ハルハ部⇒大同総兵・姜瓖 [戻る]
  49. 姜瓖 [戻る]
  50. グサ ベイセ・ムルフ 穆爾祜⇒ドゥドゥ第二子 [戻る]
  51. 姜瓖 [戻る]
  52. 姜瓖 [戻る]
  53. グサ ベイセ・ウダハイ 務逹海⇒ヌルハチ二弟ムルガチ第四子 [戻る]
  54. 姜瓖 [戻る]
  55. 姜瓖 [戻る]
  56. 姜瓖 [戻る]
  57. 姜瓖 [戻る]
  58. 姜瓖 [戻る]
  59. ハルハ部アルチュフル?(二楚虎爾) [戻る]
  60. ドロ ベイレ・バスハン?バスハ? 巴思哈⇒ヨト第四子 [戻る]
  61. 南明・桂王政権 [戻る]
  62. 南明・桂王政権 [戻る]
  63. 簡親王・ジドゥ 濟度⇒ジルガラン第二子 [戻る]
  64. ドロ ベイレ・バルチュフン 巴爾楚渾⇒ヨト第四子 [戻る]
  65. グサ ベイセ・ロト 洛託⇒シュルガチ五子ジャイサングの子 [戻る]
  66. 南明・桂王政権 [戻る]
  67. 信郡王・ドニ 多尼⇒ドド第二子 [戻る]
  68. 平郡王 ロコド 羅科鐸⇒ヨト第一子ロロホン第一子 [戻る]
  69. ドロ ベイレ・ドゥラン 杜蘭⇒サハリヤン第三子 [戻る]
  70. 南明・桂王政権 [戻る]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です