武士道シックスティーン

 と言うワケで、行ってきました映画『武士道シックスティーン』。全体的には磯山選手に「ヌルいことやってっと、殺すぞ!」と言われかねない内容でした…。アイドルムービーですね。いや、知ってましたけど、なんというか税金ですからしょうがない。以下続きます。ネタばれてますかね…。

 まあ、成海璃子はがんばって磯山さんに近づこうとはしてたんですが、なんだろう…原作で魅力だった部分が削ぎ落ちちゃってるというか、磯山さんはあんな短いスカート履かないだろうし(多分、かっこ悪くても膝下丈のスカート履く)、丸くないと思う。彼女独自のユーモアも殆ど出てこないのでちょっと物足りないですね…。意図があってそうしてるとも思えませんから、磯山さんはあんなこと言わないwwという場面が続出です。全中二位じゃなくて一位だったし…怜那が出て来ないとはいえちょっと違和感が…。あと、人殺しのような目ではなかったよねぇ…。ただ、ミニスカで胡座かく成海璃子はナカナカ良かったです。
 早苗は…まあ、あんなもんだろうしなぁ…。北乃きいだったんですが、何故か堀北真希と勘違いしててガッカリ感が…。なんで勘違いしたんだろう…。ただ、足裁きが日舞という設定はスポーンと抜けてました。元々強いと言うコトになってました。なんだそりゃ?
 後は…お父さん二人ですかねぇ…。磯山父は厳しくて言葉少ないけど、割と子供突き放したところのある親父さんなのに、磯山選手の試合は全部観戦してたりビデオ撮ったりして結構出来た人です。なのに、映画版は玄明先生と一体化した上に全然出来てない大人になっちゃってるので、娘に謝っちゃったりするので、ちょっと…。
 甲本父は…板尾創路だったので写真出てきた段階で吹きました。あと、甲本父の新発明品=眼鏡無し3D画像再生機で再生される映像が、”Star Wars“のレイア姫のパロディーでした…。つまんなかったかなぁ…面白かったから大爆笑したら場内シーンとしてたんですが…。割と早苗を励ますセリフは良かったですね。
 正直剣道シーンは引きばっかりで、思ったより迫力無かったですね…。早苗が何で凄いのかよく分からなかったし…。小説読んでるときは試合は主人公目線だったので、CCDでもつけてるイメージだからナァ…。この辺はもしかしたらアニメとかの方が良いのかな…と思ったくらい。ワンクールで綺麗に終わりそうだしダメかなぁ…。萌えないからダメか…。
 ともあれ、映画では最終的に磯山さんが悩むのは父親の言いつけ通りに剣道やってたけどコレで良いのか?という、割に青春映画では当たり前の結論に……。オイオイ!武士道どこ行ったんだよ!磯山選手武士道は!と、突っ込みたくなりました。コレじゃ映画全編チャンバラダンスじゃネーか!

 総じて言えば、DVDスルーが妥当の映画ですね。…WOWOWが制作に入っているので地上波に来るにはちょっと時間かかるでしょうし、やっぱりDVDでしょうねぇ…。ガッカリしたから原作読もうかな(『蒼穹の昴』と言いこんなのばっかり)。

NHKドラマ 蒼穹の昴 第九回 恋ごころ

 え~一回丸ごと恋バナの回ですね。こんな回を入れるくらいなら、李鴻章だって出せたろうに!!ムキー!です。原作では恋愛らしい恋愛もありませんし、玲玲に「乳吸ってよ」とか言わせるわけにも行かないでしょうし、春児×蘭琴の禁断の愛とかも大陸のお茶の間に流すわけに行かないので仕方ないんですが…。ミセス・チャンって全然美人イメージなかったんですけどねぇ…。そもそも、原作ではミセス・チャン梁文秀って面識なかったと思うんですが…。
 ちなみに、劇中、満洲人漢人は通婚できないと再三言われていますが…実は出来たりしてます。と言っても、漢軍八旗と言われる入関前にに帰順していた漢人部隊の子孫ですが…。蒙古八旗とともに満洲八旗と通婚を繰り返したために、独特の風習をこのクラスは保つことになり、満漢蒙八旗の子弟を総称して旗人と言うようになったわけです。なので、DNA的にはかなり漢人の血は入っていたようです。
 ただ、生活習俗は満洲人と変わらなかったため、辛亥革命後に迫害を避けて、漢軍八旗旗人漢人に、蒙古八旗旗人モンゴル人と言うコトにしたようですが、ナカナカ巧く行かず、結局は旗人をひっくるめて満洲族として扱うようになったみたいですね。この辺は愛新覚羅烏拉煕春先生の『最後の公爵 愛新覚羅恒煦』朝日選書 あたりを読むと詳しく書いてあります。
 と言うぐらい今回は書くことがないです。困った…。次回は恭親王醇親王のネタにします。

NHKドラマ 蒼穹の昴 第八回 龍玉の歌

 最初に…いや、皆さん分かっておいでだと思いますが、龍玉なんて本当はありません。あんなマジックアイテムというか天命の具現化したダイアモンド。《三國演義》に出てくる伝国の玉爾みたいなアイテムですね。
 で、肝腎の龍玉の歌ですが、原作とかなり違ってますね。ドラマ版はこんな感じでした。

春去春来
雲聚雲散
龍隠龍飛
玉兮百兮莫能測
得兮失兮莫奈何

邦訳
春が来ては 去り
雲が集まり 散りゆく
龍が来て また龍が去る
玉か石かは定かならず
得たか失ったかも分からず

 縦読みすると、春雲龍玉得となって実に中国的な予言詩っぽくなりますね。
 ちなみに原作の歌はこんな感じ。

万歳爺 万歳爺
哀れな奴才を お許し下さい
広大無辺のみめぐみは
天に轟き 地にあまねき(『蒼穹の昴 2』講談社文庫 P.280)

万歳爺 万歳爺
奴才は 口がさけても申しませぬ
乾隆様のお匿しになった
あの龍玉のありかなど(『蒼穹の昴 2』講談社文庫 P.280~281)

 流石にこの辺はドラマ版の方がそれっぽいですね。

 あと、ドラマでは安徳海の死に際して春児宝貝を上げちゃうわけですが、原作では陳九老爺こと陳蓮元に上げちゃってますね。この辺、慈嬉太后の寵愛を一身に受けた安徳海なら、たんまりお金を持ってるので宝貝も買い戻してるハズですから、このあたり、うだつの上がらないぐうたら師匠・陳九老爺春児が惜しげもなく自分の宝貝を与えて後宮太監の人気を一気に得る!と言う場面には繋がらないですねぇ…。さして親しかったとも言えない人にダーンと上げちゃうあたりが春児なんですけどねぇ…。
 さらに、刀子匠が字幕では畢五になってましたけど、セリフでは小刀劉って言ってますね…。どちらも原作に出てきますけど、畢五も原作ほど出て来ないし…蘭琴も怪しいほどにきれいじゃないし、春児の義兄弟でもないですし…。ここは小刀劉でも良かったかもですね。原作だとあんな恰幅良くなかったですし、良い暮らしもしてなかったですし…。

 ちなみに春児の棒叩きの原因になったのが、慈嬉太后の料理。原作でも春児の料理の師匠・周麻子造蘇肉李蓮英に羽虫入れられたために、足を折られて後宮追い出されたりしたわけですが、ホントにこんな事あったのかなぁ…と思っていたらこんな記事も…。

 西太后専用の西膳房の責任者は、謝太監が取り仕切る。房には太監の弟、謝二をはじめ今では倣膳飯荘に残る「四大抓(北京編一四三頁参照)」料理を作ったとして知られる有名な厨師が揃っていた。なかでも謝二は西太后の大好物の、焼麦を作るのが得意で、皮は紙のごとく薄く餡もとても旨く作るので大のお気に入りとなっていた。
 ある日、西太后が東陵に出かけたときのこと。この時西膳房から房師が随行したのだが、謝二は所用を理由に随行しなかった。西太后はいつものように焼麦を所望した。一口食べるといつもの味と香りとは違うことに気がついた。そのことを問いただすと、謝二ではなく劉大という者が作ったと分かった。それを聞いた西太后は怒るまいことか。責任は劉大ではなく謝二にありと、至急に謝二を呼び出し、大板による四十たたきの刑に処したのである。大板で十もたたかれると背の皮が剥けた、といわれるか謝二は焼麦一つで死ぬ目にあわされたのだ。[1 横田文代良『中国の食文化研究〈天津編〉』辻学園調理・製菓専門学校 P.116]

 慈嬉太后食通だという伝説とともに、料理の失敗で処刑された!という伝説は割と多いですね。ドラマとかだと割とメジャーなネタかと。あと、原作に出てきた菜包は多分、愛新覚羅浩さんの『食在宮廷』の記事からだとおもわれ…。ただ、菜包の故事の主人公がドルゴンだったりホンタイジだったりしてあやふやな話だったと思いますが…。あんまり慈嬉太后菜包を繋げる記事は見たことないですね。

《顔氏家訓》にも蘭陵王

 と言うワケで、顔之推/宇都宮清吉訳註顔氏家訓 2』東洋文庫 を結構前に読了。一応、書評的には自らの子孫に残す警句…みたいなコトになるんでしょうが、基本的にはBlog的なアラカルト記事がジャンル毎にまとまっていると言った印象で、自分後半しかまだ読んでいないんですが、言葉としての家訓でイメージするような内容が色濃いのは巻第七 終制第二十1だけですね…。

 北齊北周政界貴族階級の同時代的な記事や、史書とか音楽とか芸事とか文字だとか色々な蘊蓄が詰まっていてます。前にも書きましたが、ワンセンテンスが短いので携帯文化に慣れ親しんだ現代っ子にも優しい構成ですね。
 で、ワクワクして読んでいて、終盤に差し掛かった頃に見慣れたキーワードを発見したのでとりあえずメモしておきます。

  投壺之禮,近世愈精.古者,實以小豆,為其矢之躍也.今則唯欲其驍,益多益喜,乃有倚竿、帶劍、狼壺、豹尾、龍首之名.其尤妙者,有蓮花驍.汝南周2,弘正之子,會稽賀徽,賀革之子,並能一箭四十餘驍.賀又嘗為小障,置壺其外,隔障投之,無所失也.至鄴以來,亦見廣寧、蘭陵諸王,有此校具,舉國遂無投得一驍者.彈亦近世雅戲,消愁釋憒,時可為之.3

 で、蘭陵王と兄の広寧王投壺の段で出てきてます。当該個所の宇都宮訳を引用すると以下の通り…。

(前略)ところが、私が鄴(北斉の都)に行って(五五七頃)からの経験では、広寧王や蘭陵王のところで、やはりこの遊具があるのを見かけたこともあったくらいのことで、斉ではついに誰一人として一驍さえできる者がいなかったというわけだ。4

 南朝貴族サロンでは投壺が盛んで、古代のルールから離れた楽しみ方がされていたみたいですね。一昔前のポリゴン格闘ゲームみたいに連続コンボを決めるのが大流行だったようです。一方、北齊では辛うじて道具を見ることはあっても、ついぞプレイヤーを見ることはなかった…という記事デスね。で、北齊での数少ない遊具保持者として蘭陵王の名前が挙がってます。顔之推蘭陵王投壺をプレイしているところは見なかったようですが、蘭陵王邸に入って投壺が保管されているのを見かけるようなことはあったみたいですね。
 多分、田中芳樹が知っていれば、『蘭陵王5ではこれ見よがしに顔之推蘭陵王府中を徘徊させていたはずなので、この段は見逃したんですかねぇ…。

 ちなみに、東洋文庫版解題を読むと6顔之推は人を褒める際には、《顔氏家訓》の中では必ずその姓名を書き記すモノの、醜聞に属することを書く際にはその姓名を明記しなかったようです。なので、直接的に名前は出さないモノの、祖珽徐之才が下手の横好きと揶揄されているみたいですね…。にもかかわらず、実は顔之推祖珽はかなり仲がよかったらしく、尊敬すらしていたらしい…とも書かれてますね。この辺も田中芳樹が小説中に生かしてくれれば、祖珽の人物像も銀英伝ラングくらいには深みは増したんでしょうけどねぇ…。

  1. 東洋文庫版では第二十章 遺言
  2. 東洋文庫版によると[王貴]
  3. 中央研究院 漢籍電子文獻 顏氏家訓集解 巻第七 雜藝第十九
  4. 東洋文庫版『顔氏家訓』P.194
  5. 田中芳樹『蘭陵王』文藝春秋
  6. 東洋文庫版『顔氏家訓』P.215

蘭陵王#3黄河の氷を砕け!

 ツラツラと『魏晋南北朝通史1を読んでいたら、『蘭陵王2で見かけた記事があったのでメモ。

 で、 『蘭陵王』を読んでいて気になったのが、以下の個所。

(前略)連日、雪が降り、黄河は氷結した。雪がやんだある日、蘭陵王が月琴にいった。
「西岸のようすが見えるだろう、そなたの眼なら」
 そういわれて、月琴は対岸を遠望した。黄河の西岸は周の領土だ。黄河の幅は二里ほどであろうか、灰色の空と白い河氷との間に、黒い点がいくつもうごめいている。
「どうだ?」
「岸の近くで、しきりに人影が動いております。ああ、氷を割っているのですね。風に乗って、指示する声も流れてきます」
「なぜ氷を割るのか、わかるか」
「氷を溶かして氷にでもするのでしょうか」
 月琴が思いつきを口にすると、「ちがう」と蘭陵王は笑いつつ頭を振った。
「冬になると、周軍は黄河の氷を割る。わが軍が氷上を渡って攻撃してくるのではないか、と恐れているのだ」
「邙山之戦」以後、周軍は斉軍に勝ったことがない。蘭陵王や斛律光にひきいられた精鋭が氷上を駆け渡って黄河西岸に上陸してくる、と言う悪夢が周軍をおびえさせている。
「冬になっても周軍が黄河の氷を割らなくなったら、それは周が斉を恐れず、逆に、斉を武力で併呑するだけの自信を得たということだ。だから、わたしは、西汾州一帯の将兵に指 示して、対岸のようすを報告させている」3

 おお~何だか氷を割って進軍を防ぐってホントっぽい~~!ケド、何だかえもいわれぬ違和感を感じるわけです。臭う…何かが臭うぜ~~~~!
 で、『魏晋南北朝通史』を読み返していたら、あっさりとビンゴ!と言う記事が見つかったり…。

斉の高洋のころは周人つねに斉兵の西出を懼れ、冬月に至れば河を守って氷を椎いた。しかるに高湛位について以後、嬖倖事を用いて朝政ようやく乱れ、かえって斉人は氷を椎いて周兵の逼るに備うるに至ったと。4

 ……もう、蘭陵王が活躍してる頃には東岸で氷割ってるジャン…。邙山攻防戦とか関係なく、もう見切り付けられてるジャン!まあ、主人公が蘭陵王じゃそうかっこ悪いことも書けなかったんだろうけど。
 と、『魏晋南北朝通史』には、この記事は《資治通鑑》から~と書いてあったので、とりあえず元の記事を寒泉で検索。すぐに見つかるネット時代!素晴らしい!

初,齊顯祖之世,周人常懼齊兵西渡,每至冬月,守河椎冰。及世祖即位,嬖倖用事,朝政漸紊,齊人椎冰以備周兵之逼。5

 念のため断っておきますと、コッチは胡註ではなく《資治通鑑》本文でした。
 まあ、内容は『魏晋南北朝通史』の訳文の通りで、文宣帝の頃は北周黄河西岸で氷をバッキンバッキン割ってたけど、武成帝の頃には北斉黄河東岸で氷をバッキンバッキン割ってたようですね…。《資治通鑑》によると。
 なので、史実ベースで『蘭陵王』を書くとすると、蘭陵王長恭は対岸で氷割るのを不安がって見ているような余裕はなく、恐らく部下には監視じゃなくて、氷割る指示を出しているハズですね…。

  1. 岡崎文夫『魏晋南北朝通史 内篇』東洋文庫
  2. 田中芳樹『蘭陵王』文藝春秋
  3. 『蘭陵王』P.239
  4. 『魏晋南北朝通史 内篇』P.397
  5. 《資治通鑑》巻一百六十九 陳紀三 文帝 天嘉五年 正月
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