あけましておめでとう!

 あけましておめでとうございます。昨年は急にいなくなったりなんだりで、皆様に御迷惑おかけいたしましたが、今年は失踪する事なく無事に送れたらいいなと思ってます。
追記:帰ってきたので年賀状追加しました。

今年もよろしくお願いいたします

今年もよろしくお願いいたします

Google日本語入力

 というわけで、実家に帰ってきたので、親のPC使って巷で噂のGoogle日本語入力を試してます。噂通り面白いですね。遊びすぎてTwiteerのタイムラインが漢字ばかりで埋まってしまいましたが。

 遊んだ結果を一応保守しておきます。思いついたキーワードガシガシ入れただけなので、あんまり参考にはならないと思いますが、面白いですね。

史書関係

司馬談。司馬遷。史記。史記集解。班彪。班固。班昭。漢書。陳寿。陳壽。三国志。後漢書。宋書。晋書。南斉書。梁書。陳書。魏書。北斉書。周書。隋書。北史。南史。くとうじょ。旧唐書。欧陽修。歐陽脩。新唐書。旧五代史。新五代史。脱脱。宋史。遼史。金史。みんし。清史稿。
春秋。左丘明。春秋左氏伝。春秋公羊伝。春秋穀梁伝。戦国策。司馬光。胡三省。資治通鑑。朱熹。資治通鑑綱目。通鑑紀事本末。りとう。続資治通鑑長編。大唐創業起居注。順宗実録。太宗実録。明実録。清実録。
八旗通志。鄭樵。通志。とゆう。つでん。通典。文献通考。王船山。王夫之。読通鑑論。趙翼。二十二史箚記。廿二史箚記。銭大昕。じゅうななししょうかく。

 意外に正史では明史が出ないのには驚きました。まあ、なんとなく一番言及されないという気もしますが。八旗通志とか普通に出てくる当たりちょっと感心。あと、流石に旧唐書は「くとうじょ」では出ませんでした。

文学関係

山海経。山海經。穆天子伝。穆天子傳。世説新語。志怪小説。唐宋伝奇。紅線。こう孫大娘。聶隠娘。

 公孫大娘が変な出方してたものの、聶隠娘がスラッと出てきてしびれましたな。

三国志

説三分。三国志平話。羅貫中。三国志演義。曹操。劉備。孫堅。孫策。孫権。太平道。張角。皇甫嵩。朱儁。袁紹。董卓。呂布。袁術。郭汜。李傕。張繡。荀彧。荀攸。郭嘉。張遼。徐晃。張郃。関羽。張飛。諸葛亮。龐統。甘寧。虞翻。凌統。

 かなりマニアックな人名でもスラッと出てきますね。李傕とか郭汜とかアホかって感じですが。とりあえず、鄧艾とか鍾会も出てきますし、何気に鍾繇も出ます。

西遊記

大唐三蔵取経詩話。呉承恩。西遊記。孫行者。孫悟空。花果山。大鬧天宮。斉天大聖。二郎神。哪吒。太上老君。如意棒。陳江流。三蔵。とうたいそう。魏徴。東海竜王。天蓬元帥。猪悟能。猪八戒。捲簾大将。沙悟浄。牛魔王。火焔山。はっこつせい。羅刹女。紅孩児。金角。銀角。芭蕉扇。

 李世民だとパッと出てくるのに、唐太宗だとなかなか出てきません。やっぱり廟号はちょっと苦手みたいです。でも、大鬧天宮が一発で出せるIMEはまともじゃないですね…。

水滸伝

大宋宣和遺事。施耐庵。水滸伝。水滸傳。金聖嘆。托塔天王晁蓋。及時雨宋江。智多星呉用。豹子頭林冲。小李広花栄。小旋風柴進。花和尚魯智深。行者武松。青面獣楊志。黒旋風李逵。九紋竜史進。とうかん。蔡京。高俅。楊戩。徽宗。田虎。王慶。方臘。

 あだ名コミコミでバスっと出てくるあたりおかしい。陶侃は出てくるのに童貫が…あれ、どうかんだと童貫でるのか!読み間違えてた!

金瓶梅

蘭陵笑笑生。金瓶梅。西門慶。潘金蓮。武大。ごげつじょう。りきょうじ。孟玉楼。そんせつが。りへいじ。

 自分もよく知らないけど、金瓶梅はあんまり強くないですね~。

紅楼夢

曹雪芹。紅楼夢。賈宝玉。林黛玉。薛宝釵。史湘雲。王熙鳳。大観園。史太君。かこうしゃ。賈迎春。りがん。賈元春。賈探春。

 金瓶梅に比べれば良く出てくる印象です。

田中芳樹の中国武将列伝

春秋時代⇒孫武。伍子胥(ごうん)。范蠡。超襄子(趙無恤)。
戦国時代⇒呉起。孫臏。楽毅。田単。廉頗。趙奢。信陵君(魏無忌)。李牧。
秦時代⇒白起。王翦。蒙恬。
漢楚争覇時代⇒項羽。張良。韓信。
前漢時代⇒周亜夫(周勃)。李広。えいせい。霍去病。趙充国。鄭吉。陳湯。
後漢時代⇒鄧禹。馮異。岑彭。馬援。班超。曹操。関羽。周瑜。
三国時代⇒司馬懿。陸遜。鄧艾。
東西両晋時代⇒杜預。王濬。陶侃。祖逖。謝玄。
南北朝時代⇒檀道済。韋叡。楊大眼。斛律光。蘭陵王(高長恭)。蕭摩訶。
隋時代⇒韓擒虎。劉方。張須陀。
唐時代⇒李靖。李勣(徐世勣)。秦叔宝(秦瓊)。うっちけいとく(うっちきょう)。蘇定方。薛仁貴。王玄策。裴行倹。高仙芝。郭子儀。りそ(りせい)。李克用。
五代十国時代⇒王彦章。周徳威。
宋・遼・金時代⇒曹彬。楊業(ようけいぎょう)。耶律休哥。穆桂英。狄青。宗澤。岳飛。韓世忠(梁紅玉)。宗弼(ウジュ)。虞允文。孟珙。完顔陳和尚。張世傑。
元時代⇒伯顔(バヤン)。郭侃。ここてむる。
明時代⇒徐達。常遇春。姚広孝(どうえん)。鄭和。于謙。王守仁(王陽明)。戚継光。袁崇煥。秦良玉。鄭成功。
清時代⇒ドルゴン。みんりゃん。楊遇春。李長庚。関天培。せんげりんちん。李秀成。石達開。劉永福。

 異民族系のココテムルドルゴンサンゴリンチンが出てこないのは仕方ないにしても、漢字は衛青尉遅敬徳が出ないくらいでほぼパーフェクト。これは…田中信者の仕業だな…。

武侠小説(金庸)

書剣恩仇録⇒こうかかい。総舵手。陳家洛。乾隆帝。ほちんとん。かすりー。ほんらいしゅ。文泰来。駱冰。じょてんこう。よぎょどう。りくひせい。
碧血剣⇒袁承志。夏青青。金蛇郎君。崇禎帝。阿九。李自成。李岩(李巌)。何鉄手。ホンタイジ。ドルゴン。
雪山飛狐⇒こひ。胡一刀。苗人鳳。苗若蘭。田帰農。
射雕英雄伝⇒郭靖。黄蓉。楊康。穆念慈。東邪・黄薬師。だんししんつう。西毒・欧陽鋒。蝦蟇功。南帝・一灯大師(段智興)。一陽指。北丐・洪七公。降龍十八掌。打狗棒。ちゅうしんつう・王重陽。老頑童・周伯通。えいこ。江南七怪・柯鎮悪。朱聡。かんほうく。なんきじん。ちょうあせい。ぜんきんはつ。かんしょうえい。焦木大師。梅超風。全真教。全真七子。馬鈺。丘処機。王処一。たんしょたん。りゅうしょげん。かくだいつう。孫不二。かんがんこうれつ。わんやんこうれつ。九陰真経。ぶぼくいしょ。
神雕侠侶⇒楊過。小龍女。獅子吼。李莫愁。金輪法王(きんりんこくし)。独孤求敗。かくふ。郭襄。かくはりょ。やりつせい。絶情谷。神雕侠。
飛狐外伝⇒こひ。程霊素。袁紫衣。福康安。
倚天屠龍記⇒倚天剣。屠龍刀。張三豊。武当山。ちょうすいざん。明教。殷素素。張無忌。趙敏。峨眉山。周芷若。いんり。小昭。金毛獅王・謝遜。しさんりゅうおう。ようふかい。こうみょうさし・楊逍。こうみょううし・はんよう。
鴛鴦刀
白馬嘯西風
連城訣⇒空芯菜。狄雲。戚芳。戚長発。ばんれいざん。万圭。梅念笙。丁典。凌霜華。血刀老祖。落花流水。水笙。
天龍八部⇒丐幇。喬峯。蕭峯。あしゅ。あし。大理国。だんよ。段正淳。木婉清。しょうれい。慕容復。王語嫣。まんださんそう。游担之。虚竹。天山童姥。耶律洪基。完顔阿骨打。悪貫満盈・だんえんけい。ようじじょう。南海鰐神。
侠客行⇒石破天。
笑傲江湖⇒五嶽剣派。華山派。君子剣。偽君子。岳不羣。しかこう。しかひきゅう。寧中則。令狐冲。小師妹。岳霊珊。ふくい鏢局。林平之。りんえんと。辟邪剣譜。風清揚。独孤九剣。嵩山派。左冷禅。りくはく。ひひん。恒山派。定逸師たい。儀琳。こうざんは。莫大先生。劉正風。少林寺。方証大師易筋経。武当山。田伯光。せいじょうは。余滄海。日月神教。葵花宝典。東方不敗。ようれんてい。曲洋。じんえいえい。じんがこう。吸星大法。
鹿鼎記⇒韋小宝。しょうけいし。康熙帝。しょうげんし。建寧公主。順治帝。ぎょうち。かいだいふ。天地会。陳近南。ていこくそう。もくけんぺい。ほうい。双児。九難。ちんあか。かてきしゅ。呉三桂。ごおうゆう。陳円円。神龍教。四十二章経。
越女剣

 力尽きた…。意外に胡斐とか任盈盈が入ってないと思えば、思いもしない人が入ってたりして基準が分からないですね。

 と、続くかどうかはともかく一旦ここでおしまい。

追記:その後、ちょっとだけ遊びました。

武侠小説(古龍)

かんかせんけん⇒ほうほうぎょく。小公主。こふしゅう。
大旗英雄伝⇒てつちゅうとう。うんそう。水霊光。温黛黛。
ぶりんがいし⇒しんろう。おうれんか。ゆうびょうじ。
絶代双驕⇒こうしょうぎょく。小魚児。花無缺。鉄心蘭。そいん。小仙女。張菁。燕南天。激月きゅうしゅ。れんせいきゅうしゅ。ぼようきゅうまい。ときょうきょう。ははじ。こうべつかく。こうぎょくろう。
楚留香伝奇(けつかいひょうか、大沙漠、画眉鳥、しゃくしへんこん、蝙蝠伝奇、桃花伝奇、新月伝奇、ごやらんか)⇒楚留香。そようよう。りこうしゅう。そうてんじ。こてつか。
多情剣客無情剣⇒小李飛刀。しょうりたんか。りじんかん。あひ。りんせんじ。そんしょうこう。りゅうしょううん。じょうかんきんこう。けいむめい。
しょうじゅういちろう
歓楽英雄⇒かくだいじ。おうどう。えんしち。りんたいへい。
流星胡蝶剣⇒こうろうだい。もうせいこん。ようしょう。
辺城浪子、くがつようひ、てんがいめいげつとう⇒ようかい。傅紅雪。ていれいりん。
りくしょうほうでんき(きんほうおうちょう、しゅかたいとう、決戦前夜、ぎんこうとぼう、ゆうれいさんそう)⇒りくしょうほう、花満楼、せいもんすいせつ、しくうてきせい

 古龍は弱め。

金庸を読まない人生なんて…

 金庸小説は読まないと人生大いに損するらしい。うーん…。読むと人生が豊かになるかも知れないけど、読まなくてもさして損はしないと思うんだけどなぁ…。世の中面白いものなんて溢れるほどあるんだし…。

隣の部署の人が、金傭を読んだことがないといったら、それは人生を損している!と叫ばれてしまった。1

大いに損しています(キッパリ)。2

 自分は武侠小説に深入りしていたくせに、実はあんまり熱中して読んでたわけではありません。ドラマも途中で投げ出したの多いですしね。深くはまり込めるほど面白くなかったというのが、まあ、実際のところですかね。金庸も全部読んでないです。これがSF小説の世界なら自分、自己批判させられてロケット帽被せられてますよ…。
 で、正直、武侠小説って日本では受け入れられる層は広いとは思えないし、三国志が好きな人がみんな武侠小説が好きだ!っていうぐらい裾野が広がるとも思えないです…。日本だと、ものすごく狭い層でニヤニヤしながらネタにされるニッチなジャンルだと思われ…。まあ、漢族の大衆文化とか大衆のメンタリティーを知るには良い教材だとは思いますが。

 ただ、美少女キャラの書き分けについては確かに特筆すべき点があると思います。あの時代にすでにツンデレ(任盈盈)やヤンデレ(殷離)、メイド(双児)に男装(ホチントン)に綾波(小龍女)までカバーしてるわけですから、現代日本の萌はすでに五十年前の香港で金庸と言う偉大なロリコン小説家が通り過ぎた場所だと言えます。ただ、同じ武侠小説でも古龍の小説に出てくる女性のような深みのあるキャラがいないのが残念ですが…。

 だから、金庸あたりはきれいな絵をつけてハーレムラノベとして売り出せば、勘違いして買う人は多いんじゃないかと思うんですけどね。《鹿鼎記》あたりだと…。

 と言うワケでこの項はとあるつぶやきから派生(事後承諾)。

宴会記事

 本屋を歩いていたところ、見慣れた唐人〈唐人宮楽図〉1を表紙にした絵があったので手に取ってみたところ、南條竹則『飽食終日宴会奇譚』日本経済新聞出版社 だった模様。早速購入。またぞろ中華の宴会料理を飽食するという内容。しかも、一章一宴会らしく、旨そうな料理が目白押しです。すさまじく手間をかける中華料理の中でも宴会料理がメインなので、レシピ的な読み方は期待できませんが、とにかく出てくる料理が全部旨そうで頭がくらくらします。お腹すいたときは読まない方が無難です。

 で、美味しそうな料理の合間に乾隆帝の記事も何個かあったのでとりあえずメモ。

 孔府のもやし料理は有名で、中には「醸豆莛」という、もやしの中に餡を詰める、恐ろしく手間のかかるものもあるそうだ。しかし、一番よく知られている「油潑豆莛」は、単なるもやし炒めである。
 『中国名菜精萃』によると、ある時、乾隆帝が孔府へ来て食事をしたが、どうも食がすすまない。それで、おそばに控えていた衍聖公が料理人を呼び、食欲が出てお腹にももたれない料理を何かこしらえるように命じた。
 料理人は緑豆もやしに花椒を少し加え、油で炒めて出したところ、皇帝はお気に召して、「悪くない。こんな料理は初めて食べる!」といった。以来、これは孔府の名菜となったのだそうな。
 続いて来た「金香白玉板」は、軽く揚げた豆腐を白玉に見立てている。ふつうは「金鑲白玉板」とかく場合が多い。
 これも乾隆帝ゆかりの料理だ。
 ある時、乾隆帝がお忍びで田舎を歩いているうちに、お腹がペコペコになり、農家で夕飯を食べさせてもらった。家の人はこの素朴な豆腐料理を出したが、空きっ腹にまずいものなしで、皇帝はたいそう喜び、「この料理は何という名前か」ときいた。
 家の人はただの豆腐というのが恥ずかしいので、「金鑲白玉板(金を嵌めた白玉の板)でございます」とこたえたというのだ。
 乾隆帝は幾度も北京の都から江南へ行幸したが、小説や言い伝えの世界では、水戸黄門のように各地をお忍びでめぐり歩いたことになっている。そうしてあちらこちらに、この皇帝と食べ物にまつわる話がある。豆腐ももやしも、乾隆帝の膳にのぼれば名菜になってしまうのだから、大したものだ。2

 何というか、いかにも乾隆帝っぽい話。そこら中に目黒のサンマがうようよしているわけです。

 最近作では割に迷走しているイメージがあったのですが、またでふ先生の美味しそうな記事に巡りあえて幸せです。とりあえず、美味しい宴会料理を食べるように味わって読みます♪また渋谷中華料理屋に行きたくなりましたよ。

  1. 國立故宮博物院 National Palace Museum
  2. 南條竹則『飽食終日宴会奇譚』日本経済新聞出版社 P.29~31

古代中国の虚像と実像

 と言うワケで、落合淳思『古代中国の虚像と実像』講談社現代新書 を読了…。まあ、予想通りサラッと読める本ではありました。
 どういう本かというと、金文偉い!二次文献資料カッコワルイ!と言う、発掘ブームに沸く中国の世相を反映した最近の学会の風潮をデデーンと主張してる本です。まあ、文献資料でも古い時代に書かれたモノに価値があり、数百年経ってから書かれたモノにはあまり価値がないというスタンスですね。
 言わんとしていることはわかるものの「密室で会話されたとするモノが史書に書かれているのがそもそもおかしい」という類の事例を押し並べて「だからこの話は作り話だ!」という感じでガンガン断定していくのはどうかと…1。史書に書かれている”史実”は、そのまま当時起きた”事実”とは違うのは…、何というか今更ご高説垂れて貰うまでもなく常識の範疇ではないかなぁ…とも思うんですけどねぇ…。せいぜいが「密室で行われたことが外に漏れる可能性は極めて低いので信憑性には欠けるモノの、後世の史家及び当時の市井の人々が納得する説話であった」とする方がいいと思うんですけどねぇ。それならば一番わかりやすい四知でも例に出せばいいのに…と思うんですが…。

大將軍鄧騭聞其賢而辟之,舉茂才,四遷荊州刺史﹑東萊太守.當之郡,道經昌邑,故所舉荊州茂才王密為昌邑令,謁見,至夜懷金十斤以遺震.震曰:「故人知君,君不知故人,何也?」密曰:「暮夜無知者.」震曰:「天知,神知,我知,子知.何謂無知!」密愧而出.後轉涿郡太守.性公廉,不受私謁.子孫常蔬食步行,故舊長者或欲令為開產業,震不肯,曰:「使後世稱為清白吏子孫,以此遺之,不亦厚乎!」2

 まあ、有名な話なので楊震四知とでも検索すれば意味は出てくると思います。要するに、要職にあった楊震の元に夜半、王密という人が任官の便を図って貰おうとして、賄賂を持って行ったところ楊震は受け取らず、王密が「今は夜ですし知っている人もいません」と促すと「天知る地知る我知る君知る…なんで誰も知らないと言うことがあろうか!」といったという説話ですよね。
 本当にこのことを知る人がいなかったのなら、この話は史書に載ることなく二人だけの秘密になったはずですが、史書に残されているところを見ると楊震が恐れていたように誰かに見張られていたのか、恩を感じた王密が喧伝したのか、改心のディベートを楊震自信が吹聴して回ったのかいずれかですよね?史書にはママどうしてこの話が伝わったんだろう…という話は多くあります。こういうのを一つ一つあげつらって「作り話だ!」というのは…ナンセンスだと自分は思うんですけどねぇ…。むしろ、当時その説話が事実だと信じられた…もしくは史書を書いた人物にとっては事実だと信じ…そして後世の人も事実だと信じた…という社会的な側面の方が中国史では特に留意すべきだと思うんですが…。信憑性が薄いというのであれば同意するんですけど、信憑性が薄い=作り話であるというのは些か飛躍のしすぎだと思うんですが…。この辺、一般書だから敢えて強調したかったのかも知れませんが、ちょっと飛躍しすぎのような印象を受けました。

 で、文学史学が未分化の状態とよく言われる《史記》や、あの平勢氏によるとプロパガンダだと言われる《春秋左伝》も、事件の数百年後に書かれた史書で信用に値しないとか書かれていますが…。この論法で行くと《史記》の武帝朝の記述は同時代資料として全面的に信頼が置ける文章と言うコトになるでしょうし、《春秋左伝》も比較的記事の新しい部分については作為が少ないといえることになるんでしょうけど、その辺についてはスルーですね…。こういう人が見落とすのは、「一次資料も同時代資料も、二次資料や後世の資料同様嘘をつくし、完全な事実を述べない」と言うコトですね。むしろ、社会的な制約のある一次資料の方が禁忌に触れて書けないこともあるはずですから、扱いには十分注意が必要なはずです。

 あと、《孫子》については、いろいろ根拠をあげて《孫子》が春秋時代孫武の著作ではない根拠をあげています。その中で孫武で活躍したのが事実ならば、海上戦に関する記述がないのはおかしい…と書かれてます3。むしろ戦国時代に書かれた兵書なら、一般的に言われているように、何故攻城戦の記述がないのか?と言うコトにも答えないと断言はできないはずなんですけどねぇ…。
 それに《史記》では、孫武の出身で、元々『孫子兵法十三篇』が評判だったために闔廬に謁見したように読めるんですが4、自分の漢文力がないからに行ってから《孫子》を書き上げたように読めないのか…それとも最近の研究で《史記》の孫子呉起列伝が否定されているのかは知りませんが、どうして海上戦の記述がないことが《孫子》の偽書疑惑の根拠になるのかさっぱりわかりません…。この部分に関しては平勢氏同様の胡散臭さを感じるのが残念ですねぇ…。

 面白かったのが、やっぱり専門の甲骨文と、平勢氏完全否定のところだけだったのが残念でしたが…。

  1. まず問題になる部分は、趙高らによって破棄されたはずの始皇帝の爾書の内容が記録されている点であり、これは事実としてありえない。また帝位継承者を替える密談が記載されていることも不自然である。始皇帝が死んだのは紀元前二一〇年であるが、『史記』が著されたのは前漢中期(紀元前九〇年ごろの完成とされる)であり、百年以上の時代差がある。要するに、始皇帝本紀の内容は、その間につくられた作り話だったのである。『古代中国の虚像と実像』P.13
  2. 《後漢書》巻五十四 楊震列傳第四十四 楊震
  3. しかも、呉の地方は湿潤な気候のため湿地帯が多く、軍隊の移動や物資の輸送には船が有効なのであるが、『孫子』にはそうした状況での兵法はほとんど記されていない。『古代中国の虚像と実像』P.106
  4. 孫子武者,齊人也.以兵法見於吳王闔廬.闔廬曰:「子之十三篇,吾盡觀之矣,可以小試勒兵乎?」《史記》巻六十五 孫子呉起列傳第五 孫子
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