シュリーマン旅行記 清国・日本#1

 と言うワケで、ひょんなコトからハインリッヒ・シュリーマン/石井和子『シュリーマン旅行記 清国・日本』講談社学術文庫 を読んでます。トロイヤ発見の8年前、当時はむしろクリミヤ戦争で財をなした商人として、シュリーマン太平天国の乱平定直後の清国北京上海に訪れていたわけです。どうにも経歴を見ると香具師という印象が強いシュリーマンですが、旅行記は案外観察眼が確かでフィールドワークとしてはしっかりしたモノに思えます。

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もろこし銀侠伝・もろこし紅遊録

 と言うワケで、読んでから暫く経ってたんですが、秋梨惟喬『もろこし銀侠伝』創元推理文庫 と『もろこし紅遊録』創元推理文庫 を読了。
 と、真っ当なレビューはここら当たりで読んで下さいw

時代伝奇夢中道 主水血笑録
 「もろこし銀侠伝」(その一) 武侠世界ならではのミステリ
 「もろこし銀侠伝」(その二) 浪子が挑む謎の暗器
 「もろこし紅游録」(その一) 銀牌、歴史を撃つ
 「もろこし紅游録」(その二) 結末と再びの始まりと

 ザッというと「黄帝から続く銀牌をもつ侠客が各時代に庶民の味方となって活躍していたのだった!」と言う建前の中国を舞台にした時代推理小説デス。
 時代はバラバラで登場人物も違いますが、各話に共通しているのは、比較的平和な時代に、民間で殺人事件が起こり、銀牌を持った人間やその関係者が、隠されたシステムを解き明かして、事件の解決にいたる手助けをする…と言う話ですね。
 舞台とする時代が戦国時代北宋南宋民国と様々でバラエティーに富んでいる上に、登場人物はみな魅力的な良作でした。一個一個の事件のトリックには正直どうかと思うモノも中にはありましたが、それを補ってあまりある人物描写と考証で楽しめました。
 ただ、割と殺伐としたハードボイルドな話が多いのに、ひらがなの”もろこし”というタイトルと、ほのぼのとした表紙はちょっと合ってないかな…という気も。あと、言われているほど武侠テイストは感じられず、どっちかというと陳舜臣初期中国モノの様に推理モノ中国モノの融合した小説…という側面が強いのかな…とは思いました。
 武侠と言えば軽功ですが…軽功は一応出てきますが、むしろ、水滸伝的な神行法とか縮地法的な描き方でしたね。水滸伝の登場人物も『もろこし銀侠伝』には出てきますしw勿論、派手な必殺技が出てきて、技名を絶叫するわけでもないですし、腫れた惚れたの愛憎劇があるわけではないので、コレが武侠か?と言われるとやっぱりNO!と言わざるを得ませんね。武侠小説を求めてこの小説を読むのはちょっと危険です。武侠小説のテイストも確かに混入されていますが、むしろ水滸伝志怪小説のような古典の方に雰囲気は近いと思います。武侠小説よりも洗練された江湖よりの世界を舞台にした中国推理ものと言った方がすんなりします。
 しかし、オフ会で作者の方と同席する栄誉を賜ったのですが、残念ながらまだ読了して無かったのが悔やまれます。色々書きましたがオススメの小説です!

遺言

 と言うワケで、岡田斗司夫『遺言』筑摩書房 を読了しました。うーん…こう言う話が聞きたかったワケじゃないんだけど…って言うのが正直な感想ですかね?

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甲骨文字に歴史を読む

 さて、ドメイン代行の更新を忘れて一時的に繋がらない状況になってました。誰より自分がビックししましたけど、何事もなかったかのように記事を続けます。

 と言うワケでしばらく前に、落合淳思『甲骨文字に歴史を読む』ちくま新書 を読みました。以前読んだ『古代中国の虚像と実像』講談社現代新書 と同じ作者の本ですね。『古代中国の虚像と実像』は思いつきで書いたとしか思えないような、トンデモ一歩手前の本でしたがその中では甲骨文字の部分は面白かったので購入していたのをすっかり忘れてました。

 甲骨文字は知られているように、亀の甲羅牛の肩甲骨を熱して占った内容をその甲羅や骨に書き記した文字です。と言うコトは知られているモノの、意外に実際に亀の甲羅牛の肩甲骨を加工して占ってその結果の記事があります。こういう記事は見たことが無かったので、新鮮ですね。結果的には骨や甲羅を加工しているのは、占いの結果をコントロールするための作業であったと結論づけています。つまり、神権政治と言われて占いをはじめとした神秘主義が全てを支配していたような印象のある殷代ですら、政治の道具として占いと言う手法が使われて、それを神託という形で臣民が納得していた…と言うコトですね。神秘的な世界が一気にトリックのインチキ宗教家に堕してしまったような気がしますが、存外理知的で安心しました。

 あと、甲骨文字に残る祭祀の状況から、自然神と考えられる”“の信仰が殷初期から中期頃にかけて盛んになるモノの、その後はむしろ祖先神の祭祀が盛んになったと指摘しているのはナカナカ興味深いですね。

 また、この本では奴隷制社会と言われた殷代の社会を、実は奴隷が少なかった社会ではなかったか?という仮説にも言及してます。殷代の王墓が巨大なのも、偃師商城が発掘状況から予想される人口に対して遙かに強大な城壁を有しているのも、エジプトピラミッドのように公共事業として自由民を使役して創建されたモノではないか?としていますね。確かにそっちの方が説得力があります。

 甲骨文の解釈や発掘状況から考えて、の直接支配領域は意外と小さい範囲で、王の狩猟地も半日行程で回れるような場所が多かったようです。とはいえ、この時代地名と集団名は同一であったため、周代以降集団が遠方に移住するに従って地名も広範に広がった…という説は移住の事実が明らかにならない限りは机上の空論でしょうね。

 更に、甲骨文字から復元できる王名と《史記》に残る王名が一部とは言え食い違う部分があることに注目してます。初期中期祖先祭祀では見られなかった王名が、殷代後期から急に加えられたり、帝辛紂王)の前代の王・帝乙の名が見られないコトなどの指摘は面白かったデス。ただ、始祖伝説と関係づけるために帝乙と言う王を捏造し、それを西周が後押ししたというのはちょっと眉唾だとは思います。ただ、始祖微子直系の王族では無いのではないか?という疑問は確かに素通りできませんね。…しかし、平勢氏にしろ古代史専攻の人は好きだなぁ…。

 あと、面白かった部分を抜粋。

 なお、甲骨文字に記された祭祀では、神に捧げられている動物は家畜に限られ、狩りで捕らえられた野生動物は対象にはなっていない。野生動物は神からの贈り物であり、牧畜動物は神へ捧げるものという、ある種の交換関係が想定されていたのかもしれない。1

 言われてみるとそういうこともあるのか~という目から鱗の指摘。古代人の精神世界を証明できるとしても本来はこの程度ですね。

「馬」は馬を用いることを職能とした集団であり、当時は戦争に馬車(戦車)が使われたので、それを扱っていたのだろう。「族」は、のちに血縁関係を表示する意味になるが、字形は軍旗(〓)2と矢(〓)3から成り、殷代には軍隊を表す文字であった。甲骨文字には軍事の際に「王族(〓〓)4」と言う集団が動員されていることから、殷代には王の一族が戦争したと考えられた時期もあったが、殷代の「王族」は「王の軍隊」が正しい解釈である。5

 が本来は職能集団を指し、しかもは軍隊を指す…というのはどこから来たんだろう…と、割と呪術抜きでも甲骨文字は面白いです。

「羌(〓6)」は羊(〓7)の角の飾りをつけた人の形である。「羌」の異字体に「〓8」があり、「〓9」は遊牧民の風習である辮髪を表していると言われる。10

 前にも指摘したんですが、やっぱり羌族辮髪だったという指摘は興味深いです。むしろ自分にとってはこのあたりがクライマックス!

  1. 落合淳思『甲骨文字に歴史を読む』ちくま新書 P.077
  2. 甲骨文字1
  3. 甲骨文字2
  4. 甲骨文字3
  5. 落合淳思『甲骨文字に歴史を読む』ちくま新書 P.117
  6. 甲骨文字4
  7. 甲骨文字5
  8. 甲骨文字6
  9. 甲骨文字7
  10. 落合淳思『甲骨文字に歴史を読む』ちくま新書 P.096

金庸を読まない人生なんて…

 金庸小説は読まないと人生大いに損するらしい。うーん…。読むと人生が豊かになるかも知れないけど、読まなくてもさして損はしないと思うんだけどなぁ…。世の中面白いものなんて溢れるほどあるんだし…。

隣の部署の人が、金傭を読んだことがないといったら、それは人生を損している!と叫ばれてしまった。1

大いに損しています(キッパリ)。2

 自分は武侠小説に深入りしていたくせに、実はあんまり熱中して読んでたわけではありません。ドラマも途中で投げ出したの多いですしね。深くはまり込めるほど面白くなかったというのが、まあ、実際のところですかね。金庸も全部読んでないです。これがSF小説の世界なら自分、自己批判させられてロケット帽被せられてますよ…。
 で、正直、武侠小説って日本では受け入れられる層は広いとは思えないし、三国志が好きな人がみんな武侠小説が好きだ!っていうぐらい裾野が広がるとも思えないです…。日本だと、ものすごく狭い層でニヤニヤしながらネタにされるニッチなジャンルだと思われ…。まあ、漢族の大衆文化とか大衆のメンタリティーを知るには良い教材だとは思いますが。

 ただ、美少女キャラの書き分けについては確かに特筆すべき点があると思います。あの時代にすでにツンデレ(任盈盈)やヤンデレ(殷離)、メイド(双児)に男装(ホチントン)に綾波(小龍女)までカバーしてるわけですから、現代日本の萌はすでに五十年前の香港で金庸と言う偉大なロリコン小説家が通り過ぎた場所だと言えます。ただ、同じ武侠小説でも古龍の小説に出てくる女性のような深みのあるキャラがいないのが残念ですが…。

 だから、金庸あたりはきれいな絵をつけてハーレムラノベとして売り出せば、勘違いして買う人は多いんじゃないかと思うんですけどね。《鹿鼎記》あたりだと…。

 と言うワケでこの項はとあるつぶやきから派生(事後承諾)。

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