中原の虹

 と言うワケで、浅田次郎『中原の虹』講談社 を読了しました。イヤハヤ…ホント没法子な状況に天命を帯びた?張作霖満洲に降り立ったぜ!と言うお話でした。
 『蒼穹の昴』でも、史上最凶の皇后という評判のある慈嬉太后や、漢奸のそしりを受けることが多い李鴻章を…まあ、贔屓の引き倒しではなく見方を変えることによって、慈嬉太后を永遠の可憐な少女として、李鴻章を徹底した政治家として描写していました。今回は、似たような手法で百日変法の結果、非常に険悪だったとされる慈嬉太后光緒帝を実の親子以上の絆で結ばれた関係としたり、史上最悪の簒奪者とされる袁世凱も状況が悪化すると呼び出されて道化じみた芝居をさせられる苦労人として描写しています。この辺、オイオイ!と言いながら引き込まれてしまうあたり流石です。
 という所で、ネタバレ全開で登場人物の描写に関する感想です。

慈嬉太后:西洋諸国に中国を渡さないために、敢えて悪女の風評を喧伝させて、中国内部から革命を起こそうとした。又、わが子・同治帝と容姿はそっくりなのに出来の良い光緒帝を心から愛し、西洋人にいじめられないために無理心中。→モノは言い様だけど、流石に無理心中は無いよ…。

光緒帝:瀛台に蟄居させられて遂には精神を病む…と装って意外と正気で、電信機を使って革命派を煽って武昌で武装蜂起するように示唆したり、袁世凱に清朝を簒奪するように唆したりする。→親爸爸愛しさに無理心中とかあり得ないだろう…。それなら大阿哥こと保慶帝はどうやって説明するんだろう…と思ったら、熱狂的慈嬉太后ファンクラブ会員として再登場…。

ダイシャン:清初のスーパースターでドルゴンやホーゲを引き連れて、ホンタイジを謀殺したり、呉三桂を降伏させたり、薙髪令を出したりと六面八臂の大活躍をする。→いくら何でも活躍しすぎ。この人のお陰でダイチングルンは飛躍したといっても良いくらいの活躍ッぷり。ありえね~。

張作霖:根っからの馬賊で、鬼でも仏でもない張作霖。→偉くなり過ぎちゃって内面描写があんまり無いので、この小説中では神様みたいな存在。まあ、神でも悪魔でもない張作霖なんだけど。

袁世凱:熟慮するよりも勘で動いて名声を得てきた俗人。ガンガン思いつきで行動してノシノシと競争者を排除してきたように見えて、実は竹馬の友・徐世昌に急かされて行動してきた。宋教仁のことを誰よりも評価していて、その死後は勘が鈍ってヘタを打った。→極めつけの俗物なのに気が小さくて何かと言えば徐世昌を頼るので、読んでいると感情移入して可愛く感じてくる。ある意味この小説の主人公。まさか、中華皇帝即位が追い込まれた末の苦渋の選択だったとは…と危うく欺されかねないほど感情移入してしまった。

徐世昌:中正、中庸の人で調整役にうってつけ。袁世凱とは長年の友で、科挙に失敗して自殺しようとした袁世凱を助けたことから、長年続く腐れ縁が始まる。→日和見主義のヌボーっとした総統という印象が強かったのだけど、袁世凱とコンビ組ませると可愛くて仕方が無い。

宋教仁:言わずと知れた民初のスーパーアイドル。本書でも遺憾なくアイドルッぷりが発揮される。→アイドルパワーが炸裂しすぎて、中国全土の没法子を背負って立つ存在とまで言われてしまう。この小説での暗殺者は大阿哥・溥雋子飼いの鉄砲玉。袁世凱に濡れ衣を着せるのが動機というやるせなさ。

趙爾巽:《清史稿》編纂者にして実質的な初代東三省総督…という点だけでも面白いオッサンなのに、『ワシも若ければ張作霖と同じようなことをした』みたいなコトを言っちゃうノリノリの爺さん。→自分は趙爾巽が満洲八旗の生まれなのに、漢人八旗の家に養子に出たという記述がホントかどうか気になった。

大阿哥・溥雋:幻の保慶帝。義和団事件の後、ヤクザ社会に足を踏み入れてアヘン窟の王になる。→あれ?大阿哥って義和団の後は新設の新疆省に流されたんじゃあ…とか思ったけど、出番が少ないのに袁世凱暗殺とか美味しい役どころが転がってくるあたり、作者にかなり好かれているモノと見られ…。

鎮国公・載沢:西洋かぶれでシルクハットを被った英語も達者なオシャレ皇族。何やっても怒られないという非常に羨ましい立場ながら、紫禁城内で映画が上映されるという白昼夢的な何かを見て大往生的なフェードアウトをする。→慈嬉太后派の頭脳派皇族として名を残しているモノの、本当にシルクハット被ったジェントルメンだったのかは調べがつかなかった…。

 ザッと思いつく限りはこんなモンかしら…。

 コレ読んだら、澁谷由里『馬賊で見る「満洲」―張作霖のあゆんだ道』講談社メチエ を読みたくなるのも自然な流れ。白虎張とか漢卿は勿論、好大人とか麒麟ランパも写真が見られたりするので魅力的!

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