大紅綾本、小紅綾本、小黄綾本

 実録の資料を読んでいると、割とサラッと大紅綾本小紅綾本…あと小黄綾本という版本に関する用語が出てきます。常識みたいな感じであんまり説明もないんで、いや、それ何よ…と、思って調べてみました。結構時間かかりましたが…。簡単に言うと、この大紅綾本小黄綾本…という版本の違いは正本副本の差ですね…。あと、収蔵場所も違いますが。

小黄綾本漢文聖祖仁皇帝實録

小黄綾本漢文聖祖仁皇帝實録i


 まず、実録館で実録の編纂が完成すると、皇帝の審査を受けます。この時に進呈されるエディションを定稿本というのですが、この時の版本が”黄綾本”です。サイズ的には後述の小紅綾本と同じくらいだからどうやら小黄綾本とも言われるようです。小黄綾本が有るからと言って大黄綾本はないみたいです。いや、昔はあったという説もないこともないみたいですが、基本的には確認のための本なのであまり大きいのは読みにくいからって言うのでこういうサイズだったのかしらと…。まぁ、あんまりサイズについては書いてる史料見当たりませんが。ほぼこれで決定稿なのですが、中には誤字脱字や事実関係の錯誤なんかが皇帝によって指摘されることがまれにあったようです。実録も大部ですし乾隆帝の《高宗純皇帝実録》は1500巻もあります。嘉慶帝は実録を読むのを結構好きでやってたみたいですが、それでも確認までに3年かかったようです。なので、小黄綾本は正本ではあるものの他の版本と文字の異同がある可能性はあります。小黄綾本の正文の写真とか見ると、訂正箇所は黄色い付箋を貼って直したようです。ちなみに、小黄綾本の保管場所は本によっては上書房にあったとか、乾清宮にあったとか、内閣大庫にあったとか説がまちまちデス。現在の収蔵場所も中國第一歴史檔案館に有るんだか故宮博物院圖書館に有るのか物の本によっては違いますので、よく分かりません…。そもそも、揃ってるんだかどうかすらよく分かりませんしねぇ。
大紅綾本(皇史宬)漢文高宗純皇帝實録

大紅綾本(皇史宬)漢文高宗純皇帝實録ii


 で、内容に問題が無いことが確認されると、吉日を選んで実録の告成…まぁ完成が宣言されます。雍正年間からは乾清宮で式典を行って実録を奉納するようになったようです。基本的に正本は二組作成されます。正本のことを”大紅綾本”と称します。明代実録の様式に則ったサイズで作成されているようです。ちなみに大紅綾本一組三言語(満漢蒙)は皇史宬に尊蔵されます。通称:皇史宬本です。これが今中國第一歴史檔案館に保管されている《実録》です。
 もうワンセットの正本大紅綾本一組二言語(満漢)は盛京崇謨閣に尊蔵されます。通称:盛京本乾隆年間までは鳳凰樓に保管されていたようですが、容量を超えてしまったために《玉牒》と歴朝《実録》を崇謨閣に移したようです。内藤湖南が調査したことで《満文老檔》や《五體清文鑑》が”発見”された宮殿ですね。《満洲実録》も同時に発見されていますから、そういう場所だったと言うことですね。こちらは遼寧省檔案館に保管されています。ちなみにいわゆる満州国で出版された《大清歴朝実録》の底本はすべてこの版本です。
小紅綾本(内閣本)漢文世宗憲皇帝實録

小紅綾本(内閣本)漢文世宗憲皇帝實録iii


 更に副本は”小紅綾本”と呼ばれます。これも満漢蒙の三言語版有ります。内閣実録庫に保管されます。通称:内閣本。現在は台北故宮…つまり國立故宮博物院に保管されています。更に《清史列傳》や《滿漢名臣傳》が編纂された国史館でこの内閣本を複製したようです。 …が、この版本の現在の行方はどこにも書いてませんでした。
 で、もうワンセットの副本?小紅綾本乾清宮に保管されていました。通称:大内本嘉慶帝の頃までは西暖閣にのみ保管されていたようですが、何せ乾隆帝の《高宗純皇帝実録》は1500巻の大部ですから、場所が足りなくなってしまったので、太祖・太宗・世祖・聖祖・世宗の五朝実録を乾清宮東暖閣に保管し、それ以降を西暖閣に保管したようです。乾清宮東西暖閣とか《日下旧聞考》にも記載ないんで、昭仁殿弘徳殿のことかなと思ったら、《清宮述聞》に記事が有ったので、どうやら乾清宮内に東暖閣西暖閣という場所もあるのかなと…。昭仁殿弘徳殿とは明らかに別の場所という感じの記述ですし。ともあれ、こっちの小紅綾本は皇帝が閲覧に使用していたみたいで、小黄綾本よりは乾清宮に保管されている小紅綾本大内本の方が皇帝所用という感じですね。で、こちらは故宮博物院圖書館に収蔵されているようです。

 つまり、纏めてみると…実録には三種類の装丁が有って五カ所⇒六カ所に保管していた模様。まず皇帝審査用の稿本最終稿:小黄綾本。それに、保存用の正本:大紅綾本×2部⇒盛京崇謨閣盛京本)と皇城内の皇史宬皇史宬本)で保管、更に副本:小紅綾本×2部⇒紫禁城内の乾清宮東暖閣西暖閣大内本)と内閣閲覧用に内閣実録庫内閣本)で保管。で、後に内閣本の複製である国史館本。基本的には満漢蒙三言語のワンセットが基本だけど、盛京本だけが満漢二言語のワンセットになっている…で、そもそも国史館本漢語以外写したのかどうかすらよく分からない…という感じですかね。
 と、折角なので中華書局版の《清實録》の底本一覧が影印説明にあったのでサラッと纏めてみます。

實録名称首巻巻数巻数底本元収蔵場所現収蔵所
満洲實録8巻小黄綾本上書房中國第一歷史檔案館
太祖高皇帝實録3巻10巻首巻3巻小黄綾本上書房中國第一歷史檔案館
巻1~4,巻8~10大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
巻5~7大紅綾本盛京崇謨閣遼寧省檔案館
太宗文皇帝實録3巻65巻首巻3巻、巻1~30小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
巻31~48大紅綾本盛京崇謨閣遼寧省檔案館
巻49~65大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
世祖章皇帝實録3巻144巻小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
聖祖仁皇帝實録3巻300巻首巻3巻、巻1~150大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
巻151~198小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
巻199~201大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
巻202~300小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
世宗憲皇帝實録3巻159巻大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
高宗純皇帝實録5巻1500巻首巻5巻、巻1~695大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
巻696~701小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
巻702~757大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
巻758~763小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
巻764~787大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
巻788~798小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
巻796~1500大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
仁宗睿皇帝實録4巻374巻大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
宣宗成皇帝實録5巻476巻大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
文宗顕皇帝實録4巻356巻首巻4巻、巻1~339大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
巻340~347小紅綾本乾清宮故宮博物院圖書館
巻348~356大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
穆宗毅皇帝實録4巻374巻大紅綾本皇史宬中國第一歷史檔案館
徳宗景皇帝實録4巻597巻北大定稿本清室旧蔵北京大學圖書館
宣統政紀1巻70巻北大定稿本清室旧蔵北京大學圖書館

 で、実は紅綾本とか黄綾本とかの話は《清實録》影印説明に手際よくまとまってますので引用します。

太祖至穆宗十朝實録
 這十朝実録究竟繕寫幾部、歷來説法不一。一九二五年故宮博物院成立後、開始清點實録、所見太祖・太宗・世祖(以上三朝實録爲雍正・乾隆間校訂本)・聖祖・世宗・高宗・仁宗・宣宗・文宗・穆宗十朝實録滿・漢・蒙文本各四部。另外、盛京崇謨閣藏有十朝實録滿・漢文本各一部、共計滿・漢文本實録各五部、蒙文本實録各四部。這五部漢文本實録習慣上按裝潢和開本大小、被稱爲大紅綾本・小紅綾本・小黄綾本。大紅綾本兩部、一部收藏在皇史宬、現藏於中國第一歴史檔案館、一部收藏在盛京崇謨閣、現藏於遼寧省檔案館。小紅綾本兩部、一部收藏乾清宮、現藏於故宮博物院圖書館、一部收藏在内閣實録庫。小黄綾本一部、收藏在内閣實録庫、現藏于中國第一歴史档案館。iv

 《徳宗景皇帝実録》と《宣統政紀》は編纂過程がややこしいので別口なんですよね…。まぁ、溥儀といわゆる満州国絡みで面倒なんですよね…。と、サックリ《大清歴朝實録》の底本の本も書いておきます。まぁ、ほとんど盛京本なんですけど。

實録名称首巻巻数底本元収蔵場所現収蔵所
満洲實録8巻大紅綾本盛京崇謨閣遼寧省檔案館
太祖高皇帝實録3巻10巻
太宗文皇帝實録3巻65巻
世祖章皇帝實録3巻144巻
聖祖仁皇帝實録3巻300巻
世宗憲皇帝實録3巻159巻
高宗純皇帝實録5巻1500巻
仁宗睿皇帝實録4巻374巻
宣宗成皇帝實録5巻476巻
文宗顕皇帝實録4巻356巻
穆宗毅皇帝實録4巻374巻
徳宗景皇帝實録4巻597巻小紅綾本溥儀旧蔵
宣統政紀1巻70巻大黄綾本溥儀旧蔵

 ちなみに臺灣華文書局本は《大清歴朝實録》の海賊…ゲフン、縮刷影印版なので、こちらも底本は《大清歴朝實録》とおなじと言うことになります。

  各版本のサイズについてはあまり解説自体無いんですが、《清實録》影印説明には下のような感じで説明があります。

 大紅綾本、書用涇縣榜紙、畫朱絲欄、胡蝶装、毎半葉九行、行十八字。毎巻前面均有勅修大臣名単(《徳宗景皇帝實録》毎巻前無勅修大臣名単)。小紅綾本、書用涇縣榜紙、畫朱絲欄、一般線装、毎半葉十行、行二十四字。小黄綾本、一般線装、毎半葉八行、行十九字。v

 まぁサイズというよりは版下の説明という感じですが…。後、大紅綾本胡蝶装なのに、小紅綾本小黄綾本線装なんですねぇ…。うむ、これは知りませんでした。入関前には公文書に使われるのは高麗紙が多かったのに、涇縣榜紙が使用されている…というのも、何とも感慨深いですねぇ…。裏紙使ってませんし…。

 で、おまけですが、実録にはこだわりがある嘉慶帝がゴチャゴチャと文句言うところですね…。

(嘉慶九年五月)戊戌(中略)又諭。據御史邱勲奏。請将實錄館纂進之紅綾本。添派勤慎人員。細心覈對期與黄綾本。一律完善等語、所奏甚是。該館毎日進呈黄綾本、經朕敬謹恭閲。偶遇字畫訛舛、即随時指示更正。足以昭垂永久、其尊蔵各處之紅綾本。字經數寫、巻帙較多、難保無偶失檢覈之處、将來全書告成後、朕毎日恭閲、即係紅綾本。若看出繕寫錯誤、再将職司校勘人員交議。巳不免有改換篇頁之事、自應趁此全書未竣、校閲各員尚多。從容覈對、務臻精善、著該館總裁。遴派勤慎之員、将現辦紅綾本。即以經進之黄綾本為準本、詳細恭校、不可稍有忽略。vi

 国立民族学博物館図書室で《清實録》のテキストを全文検索をしてみたんですが、黄綾本という名称は他の実録でも出てきますが、紅綾本という単語は嘉慶帝のこの箇所にしかでヒットしませんでした…。内容としては…まぁ、黄綾本で審査している時にまれに誤字脱字や誤解に基づく記述があると。で、それを紅綾本に書き写す時に写し損ねてはよろしくないから、まじめで細かいことに向いた人間を実録館に増員すべきだと…まぁ、そんなことでが書いてあります。なんだかめんどくさいですよねぇ…。

 と言うところで、清代の収蔵場所と現在の収蔵場所を纏めてます。日本にあるのも間違いではないんですが、又の機会に触れます。

参考文献:
谢贵安《清实录研究》上海古籍出版社
清實録》中華書局
章乃炜等 编《清宫述闻》故宫出版社

  1. 故宮博物院(北京故宮)蔵《清史図典》第五冊P.48 [戻る]
  2. 中國第一歴史檔案館蔵《清實錄》1巻 図録P.2 [戻る]
  3. 國立故宮博物院(台北故宮)蔵《清雍正文物大典》國立故宮博物院 P.41 [戻る]
  4. 《清實録》影印説明 P.2 [戻る]
  5. 《清實録》影印説明 P.9 [戻る]
  6. 《仁宗睿皇帝實録》巻百二十九 [戻る]

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